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COLUMN

お家の財産、思い出、命を守り、頼もしい見張り番「金庫」

 「あっ!確かそこに現金500万円入れていました!」、私が消防士の頃、ある火災の現場検証をしている時にとても焦った表情で声を震わせながら訴えていた住民の方の言葉です。まさか、こんな木製の小さなタンスらしきものにそんな大金を?と、半信半疑でしたが、その箇所を慎重に確認するも…。真っ黒に焼けた紙状の灰だけが虚しく残され、高額の紙幣をタンス預金して火災で全て燃えてしまったという悲惨さを目の当たりにした方の事は今でも覚えています。ただ、火災による逃げ遅れ、死傷者はなく命だけは救われたことが幸いの火災事故でした。

 また、別の火災事故では、一度は火災から避難をしたものの、「大切なモノがまだ中にあると」燃えている建物に取りに戻り、還らぬ人になってしまった痛ましい現場も経験してきた事も忘れられないです。さらに、風水害が頻繁に多発する地域で勤務していたので、沢山の土砂災害現場を経験しました。そこでは、「大切な家族の写真が水浸しだ…」、「婚約指輪がどこかに流された…」「子どもからの手紙や思い出も何もかも流された」など、被災した方からの落胆した思い、ちゃんと保管しておけば良かったと後悔の声も多く聞いてきました。
 時は流れても、このような事態は今もなお頻繁に起きていて、ニュース番組や被災地でのインタビューなどでもよく見聞きします。それは、家のなかに「大切なモノ」があるのに、無造作に近い状態で分散されて保管されているケースが多いからです。さらに、時代の変化と共に利便性が向上した反面、データなどはコンパクト化され安易な収納方法になりがちです。確かに、「うちはそういう状況だ」と思われる方が多いのではないでしょうか?

 防災グッズや非常用持ち出し袋などは、玄関や倉庫、車両、会社など分散して非常時には直ぐに使用できるよう工夫しましょうと普及啓発されています。しかし、避難後の生活再建に必要な貴重品や、人生の支えとなる家族の思い出、自分が大切にしているものは殆ど入れられていないです。

 では、先ほど述べたような人生を左右する災難に遭った時に、事前にご家庭や事務所などに「金庫」を備え付けていたらどうでしょう。

●火災時に高額の紙幣をタンス預金していて火事で燃えてしまった…。

 
 もしあの時「金庫」に保管していたら、生活再建も困難にはならなかったでしょう。火災に耐えられる保管状況だったら、紙幣のダメージは軽減されていました。また、避難したあとに火災現場に引き返すことなく、命を優先して冷静な避難行動がとれていたはずです。因みに、汚損、損傷などの理由により使用することが困難となった紙幣については、日本銀行の本支店にて、新しい紙幣と交換できます。

 なお、交換の基準については日本銀行法施行規則第8条により、以下のとおりとなっています。

【交換の基準】
表裏の両面がある日本銀行券(紙幣)が
全体の2/3以上が残っている場合・・・・・・・額面全額
全体の2/5以上2/3未満が残っている場合・・・額面の半額
全体の2/5未満しか残っていない場合・・・・・交換できない

●風水害時に大切な写真や思い出のものが水で汚れた、どこかに流されて行方不明になってしまった…。


 もしあの時「金庫」に保管していたら、貴重品のみならず、「生きるための励み」や「心の支え」になるものが残っていたでしょう。土砂や泥水によって汚損された写真や紙類は、元には戻らないですし、乾かして使うにも汚染されたものから感染症を引き起こすなど二次的被害を発生させてしまいます。また、流された大量の土砂の中から「大切なモノ」を探し出すのは非常に困難です。
 ここで述べた「金庫」とは、皆さんがイメージしている、防犯上の観点から貴重品や書類などを保管するだけの役割として設置しているものとは違います。
 私が過去に消防士として沢山の現場を経験したからこそはっきり言えるのは、「耐火」「耐水」「防水」性能を備えている、防犯にも防災にも対応するあらゆる災害に強い、「大切なモノ」を守りぬく「頼もしい見張り番」としての「金庫」が強い味方であり非常に有効だという事です。過去に出動した災害現場で、家は失ったけれど「金庫」があったから、「貴重品が無事で社会復帰が早くできた」「家族写真や親の形見」が無事で良かったという方もいらっしゃいました。
 まさに、一家を守った「金庫」は金目の物だけでなく、一家の人生を守った“「大切なモノ」庫”と呼べます!

 これまで、阪神・淡路大震災、東日本大震災、熊本地震、西日本豪雨、感染症被害、能登半島地震など、記憶に深く残る災害に、消防士として、又は、防災専門家として携わってきました。地震一つの災害からでも、火災、土砂災害、事故、犯罪被害、感染症被害、体調不良へと災害が常に複合することを想定しておかなければなりません。これから備えるべき更なる危機は、地震津波等の地学的危機、地球温暖化や異常気象に伴って、台風や集中豪雨が激化することによる風水害・高潮・土砂崩れ、火災等の気象学的危機、インフルエンザや出血熱等の感染症学的危機です。
 私たちは、いつ、どこで、どのような災害に遭うかは分かりませんが、災害によっては国や自治体から発表されている「ハザードマップ」で、皆さんがお住いの地域や勤務されている職場などの危険があらかじめ想定できます。
 もし、「ハザードマップ」内で危険に該当していなくても、非常時に「命」を最優先して身一つで避難することは皆さん分かっていることです。その大切な「命」を未来へ繋げるためにも、「大切なモノ」を守ること、“「大切なモノ」庫”を備えの要にしておく事が今の私たちがすべきことでしょう。

【監修】

  • 野村功次郎(防災家・防災スペシャリスト)

    日本テレビ「世界一受けたい授業」の防災スペシャリストの先生、「THE・突破ファイル」再現ドラマのスーパーバイザーでも有名な講師。22年間の消防士経験で得た、災害、救急、防災等の現場での技術、知識、エピソードを元に、独自のスタイルでわかりやすく丁寧にアドバイスする防災のスペシャリストとして活動。